野鳥の名前にこだわらない 「日本野鳥の会」尾崎さんに聞く、親子で始める野鳥観察
キャンプの醍醐味でもある野外遊び。一度フィールドにとび出てしまえば、そこに「子育て」は要らず、子どもは遊びを介して自ら育つもの。そんな「子育ち」をテーマに、毎回さまざまなゲストをお呼びする連載。
今回は、キャンプやアウトドアフィールドで出合う「野鳥」にフォーカス。「日本野鳥の会」のレンジャーであり、環境教育担当として子ども向けの観察会なども行う尾﨑理恵さんに、親子で楽しめる野鳥観察のコツを教えてもらいます。
「公益財団法人 日本野鳥の会」は野鳥の研究・保護や野鳥観察の普及に取り組む環境NGO。会員数およそ3万人と、NGO団体では国内有数の規模を誇ります。そこで、全国の自然公園などのフィールドに常駐し、施設の運営や野生生物の魅力を発信するのがレンジャーのお仕事。尾崎さんが常駐するのは、神奈川県にある横浜自然観察の森。30年以上前から市が保護してきた44.4ヘクタールの敷地は市内最大の緑地の一角にあり、約3,500種の野生生物が棲息しているそう。
まずはハト、スズメ、カラスから
――キャンプ場などの屋外では鳥たちとの出合いも多く、子どもはもちろん興味津々ですし、私も「子どもと一緒に観察できたら楽しいだろうな」と思います。でも、野鳥の知識もなければ双眼鏡の使い方も知らないので、なかなか踏み出せずにいて……。
尾﨑さん:野鳥を見るのって難しいですよね、とよく言われます。保護区などの特別な場所に行かないと見れない、と思われている方も多い。でも、生活を振り返ってみると、実は野鳥は身近なところにいるんです。例えば未就学児のお子さんにとってアリやダンゴムシは身近な虫ですが、それと同じくらいハトとスズメとカラスは身近な野鳥です。まずは、それらを子どもと一緒に観察してみるのはどうでしょう?ポイントは、私たち人間を軸にしながら、鳥たちがどういう風に暮らしているのかを照らし合わせて見ていくことです。
――ハト、スズメ、カラスはどこでも“鉄板”ですが、確かに野鳥ですね!
尾﨑さん:例えば、なにをどんな風に食べるのか、どんな時にどんな行動をするのか。鳥たちのついばみ方は私たちの食べ方とはずいぶん違うし、私たちがお風呂に入る代わりに、スズメやカラスは水浴びや砂浴びをします。そうやって見ていくことで、子ども達の関心がより深まっていくように思います。
――それなら街中でも実践できますね。野鳥観察は大自然のなかでするものだと思い込んでいました。
尾﨑さん:大都会の横浜の小学校でさえ、校庭には6〜10種類の鳥がいます。新宿や渋谷になるとさすがに3〜5種類だと思いますが、少しでも緑地があれば軽く10種類はいるんです。
――普段気に留めていないだけで、野鳥は結構身近にいるんですね。
尾﨑さん:自分が住む地域での定点観測はとてもおすすめです。鳥には通年いる鳥もいれば、渡って来る鳥、去って行く鳥、色々です。同じ場所を1年通して観察することで、それら鳥の動きが見えてきます。また、身近な自然をどれほど知っているか。これが、結果的に自然を守る大事な第一歩になると私たちは信じています。地域の自然に目を向けることは、自然を守るための根源的な行為だと思います。
野鳥観察では子どもに“教えすぎない”
――ハト、スズメ、カラスは除いて、やっぱり野鳥の名前が分からないのが、野鳥観察のハードルになっているように思います。
尾﨑さん:私たちは子どもと野鳥観察をする上で、絶対に名前を言わなきゃいけない、とは思っていないんです。まず野鳥の色を楽しんで、行動を見たり、鳴き声を聞くように促します。例えばコマドリは「ヒンカラカラカラカラー」と鳴きますが、子どもにとっては名前よりもこの鳴き声の方が断然面白いし、記憶に残りやすい。そこから細かいことを子どもが知りたがれば、図鑑などで調べて共有すれば良いと思います。
――名前を知らなくても野鳥観察はできるんですね。一気に気持ちのハードルが下がりました。
尾﨑さん:私たちレンジャーが子どもたちと観察する際に気をつけているのは「教えすぎないこと」です。私達が知っていることをお伝えしていくなかで、子どもたちが自ら発見できたり、その思いを共有できたりするように“お手伝い”していきます。例えば、鳥を見つけた時に「あれはメジロです。メジロという鳥は~で、〜で、〜なんですよ」と説明するのではなく、「あそこに何か鳥がいますね。「何色でしょうか?何をしているのかな?」と導いていく。そうして「黄緑色に見えるな。何か食べているな」と、自分で得た発見や気づきが、これまでの生活の知恵や経験に結びついて、記憶がより深く残っていくのだと思うんです。
――現地での発見や気づきがこれまでの生活に結びつくとは、具体的にどのように結びつくんでしょうか?
尾﨑さん:例えば、子ども向けのテレビ番組や絵本を通して、子どもの頭には大人が思っている以上に様々な知識が入っています。それらの土台を前提に、実物を自分で発見した時に、映像や絵本で得た知識が呼び起こされて、実物を見た経験と結びつく。そうした発見の記憶は子どものなかにすごく残りますし、大きな喜びにも繋がります。
――予習をした上での実際の体験だからインパクトがあるんですね。
尾﨑さん:小学校高学年にもなると、興味のあるお子さんだとかなり知識が入っている方もいるのですが、意外と実物を見たことがないことも多くて。子どもって、知識力や記憶力を本当にたくさんもっている。それが実物と結びついた時に“最強”になるのだと思います。
――おすすめの番組や映像があれば教えてください。
尾﨑さん:未就学児には、図鑑がまだ親しみにくい場合も多いので、野鳥の絵本がおすすめです。多数ありますが例えば、野鳥の会が監修しているもので『青い羽見つけた!』という絵本があります。森、池、川など環境ごとに生息する野鳥が紹介されています。野鳥は、環境ごとにある程度探す目安がありますから。
――これなら、予定しているキャンプ場の環境に合ったページで予習が簡単にできますね。親も一緒に学べます。
双眼鏡初心者には水辺から
――野鳥観察には双眼鏡が必須のように思っていましたが、そうでもないんですね。
尾﨑さん:あるに越したことはないのですが、双眼鏡は使えるようになるまでに少し時間がかかります。これは大人にも言えることです。初めての方には2つのレンズを1つに合わせ、その中に鳥を収める、というのがなかなか難しい。そこで気持ちが折れてしまうことがよくあります。
――確かに双眼鏡は大人でも難しいですよね。初心者へのポイントなどはありますか?
尾﨑さん:まずはフィールドとして水辺から始めるのが良いです。空間が開かれているし、カモやサギの仲間やカワウなど、ある程度大きくて、ゆっくり動く鳥が多いためです。そこで、レンズの中に鳥を収める、という成功体験を積み重ねて、自信をつけていただく。それができるようになったら、山や森など場所を変え、目的を小さな鳥に。そうして段階を踏んでいくと良いと思いますよ。
*日本野鳥の会(普及室主催)では、オンラインで様々なイベントを計画しています。初心者向け野鳥講座のほか、鳥のお話と工作を一緒に行うものなども予定。情報をご希望の方はLINEで「日本野鳥の会 バードウォッチング」で検索を