姫乃たまの「おそとで生きるもん!」第7回 海釣り予行演習で釣り堀へ
こんにちは、大漁旗を着ている姫乃たまです。
このワンピースは、北海道を拠点に古布の大漁旗をリメイクしている「sabumekko」(http://sabumekko.com)というナイスなブランドの服で、いますぐこのワンピースで北海道へ釣りに行きたいのですが、なかなかそういうわけにもいかないご時世なので、都内の釣り堀にやって来ました。
なんで急に釣りかって、そりゃあキャンパーたるもの、自分の食料くらい自分で確保したいからです!
JR市ヶ谷駅のホームから、ビルとアスファルトに囲まれた中に、ぽっかりと水がきらめいている空間を見たことありませんか? あの川のようなところ、江戸城の外堀らしいですね(編集担当:Nちゃんに教えてもらった)。
存在は知っていたけれど、だいたい慌ただしく電車に乗ってしまうので、ずっと気になったままでした。
あそこで釣り堀を囲んで座っている人たちが、ミニチュアくらい小さくしか見えないのに、のんびり楽しそうに過ごしてるのが伝わってくるようでうらやましかったんですよね。
名前は初めて認識したのですが、「市ヶ谷フィッシュセンター」というそうです。今度、伊豆大島に海釣りに行くので、今日は予行演習も兼ねて足を運びました!
ちなみに私の釣り経験は、小学校低学年の夏休みに祖父に釣り堀に連れて行ってもらったことと、船釣りに行った父親を、母親と弟と一緒に八景島シーパラダイスで遊びながら待っていたことだけです!(関係ない)
受付をした後に、練った小麦粉のようなエサを渡されて胸を撫で下ろしました。釣りに来ておいて恥ずかしいのですが、私は虫が苦手なのです……。
しかし、それよりもずっと大きな問題が!
釣った魚はリリースしなければいけないと、知らなかったのです。
唯一行ったことのある釣り堀では、アユを釣って食べたので、釣り堀は「アユを釣って食べる場所」だと思い込んでいました。冷静に考えると、すべての釣り堀がアユ専門だと思っていたほうが謎です。
この釣り堀にアユはおらず、コイか金魚が釣れるのですが、釣った後に食べることはできません(そもそも金魚っておいしいのかな)。食べるために釣るのと、ただ釣るのとでは、自分の中に大きな隔たりがあって一気に困惑してしまいました。
「釣れたらどうしよう」と思いながら、指先であいまいにエサを練っていたら、Nちゃんに「なんか大きくないですか?」と言われて動揺。
「えっ、そうなの?」
小さくして釣り針に付け直しながら、なにもかもよく調べずに行動する自分が憎くなりました。
釣り針を水に投げ入れると、「釣れたらどうしよう」という不安がぐっと迫ってきます。
釣ったコイに対して、どういう気持ちでいればいいんだろう。魚は人間の体温でも火傷することがあると聞くし、もたもた体を触って弱らせてしまったらどうしよう。
しかし、いくら釣り針を投げ入れても、私の不安が伝わっているのか、さっぱりコイは釣れません。よく見ると、私が投げ入れた釣り針の餌には目もくれず、足元で堀の縁の藻を食んでいるではないですか。
釣れたらどうしようと葛藤している私より、コイのほうが釣り堀に慣れているのです。そう簡単には釣られません。
エサをつけては投げ、つけては投げ……。しかし、釣り針からエサがなくなるばかりで、コイは釣れないどころか、引っかかってる感触すらありません。
もはや私が投入したエサだけでお腹いっぱいになっているコイがいそうです。私は1時間1000円で、釣り堀のコイにエサをあげに来た女。
釣りに来たはずが、私が鯉に泳がされている!
しかしこれ、今日は釣れなくてもいいとして、今度の海釣りはどうなるんだ……。
途方に暮れていると、後ろを通ったおじさんが「大漁か?」と私のワンピースを見て挨拶してくれました。
素直に「一匹も釣れないです」と言うと、「どれ」と隣に座って、さっと一匹、また一匹、コイを釣り上げました。
えっ! 同じエサをつけた釣り針なのに、何が違うのか全然わかりません(でも絶対に何かが違う)。すばやく釣り針を投げ入れては釣り上げるのを繰り返しています。
ぽかんとしていたら、「はい!」と竿を持たせてくれて、釣り針を投げ入れてくれました。コイが釣り針に食いついた瞬間が、私にはまったくわからないのですが、どうやらおじさんには伝わっているようです。
同じ竿なのに、どんどんコイが釣れて、イス代わりにしていたビールケースの上で思わず腰が引けます。
おじさんはそんな私の様子を気にかけず、コイの体に触れないように、棒を使ってさっと釣り針を外していました。
釣り堀の中には時々、糸が切れてしまった釣り針が口に刺さったままのコイがいて、それらも目にも留まらぬ速さで外していくのでした。
「コイは釣っても弱らないんですか?」ときくと、「多少は弱っちゃうから、早く釣り針を外すんだ」とおじさんは教えてくれました。
市ヶ谷生まれで、子どもの頃からこの外堀(「お金がないから釣り堀の外だったけど」と言って笑った)で、ずっと釣りを続けているそうです。
上手な人の釣りを初めて見たので、こんなにスマートなものなんだと思いました。コイは私みたいな初心者のエサを食べて、時々上手な人にさっと釣られて過ごしているのかもしれません。
釣り堀は親子連れやカップル、泳ぐコイを見ながら話したい人たちで賑わっていて、牧歌的な雰囲気です。
ぽっかりと広がっているよく晴れた空が、まだ折り合いをつけられていない気持ちと対照的でした。
何を考えているのかわからないコイが、水の中をゆるゆると泳いでいます。
駅のホームから見ていた釣り堀には、私の知らない世界があるようでした。
【次回予告】
と、い、う、わ、け、で、心配しかありませんが、伊豆大島の海で釣りをしてきます! 果たして釣れるのか、その前に何を着て行けばいいのか、何を持って行けばいいのか、何もわかっていません! 虫除けは要るんでしょうか。移動はジェット船とのこと。ジェット船って何!?(調べろ私)
【プロフィール】
姫乃たま(ひめの たま)@Himeeeno
1993年、東京都生まれ。10年間の地下アイドル活動を経て、2019年にメジャーデビュー。同年4月に地下アイドルの看板を下ろし、文筆業を中心にトークイベントにも数多く出演している。2015年、現役地下アイドルとして地下アイドルの生態をまとめた『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)を出版。著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)、『周縁漫画界 漫画の世界で生きる14人のインタビュー集』(KADOKAWA)など。音楽活動では作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『パノラマ街道まっしぐら』『僕とジョルジュ』などがある。