姫乃たまの「おそとで生きるもん!」第9回 伊豆大島で釣った小サバをいただく
こんにちは、姫乃たまです。
突然ですが、皆さんは離島でレンタカーのバッテリーが上がったことはありますか?
私たちはあります。
3人とも釣りに夢中だったので、バッテリー上がりに気づいた時点でレンタカー屋さんは閉まっており、思いつく限りの解決策を試したものの、錆びついたクルマはうんともすんとも言いません。
容赦なく海に沈んでいく太陽。迫る夜。港に取り残された私たち。
最終手段として無理を承知で、宿泊するゲストハウスのオーナーさんに迎えをお願いしようと、おずおずと電話をかけたら「えっ、お酒飲んじゃった!」と驚かれたのが、いまです。
数十分後、助手席にゲストハウス「青とサイダー」(https://aotocider.com)オーナーの吉本浩二さんを乗せたクルマが、港に到着しました。
運転席でハンドルを握っているのは、なんと吉本さんのお母さん。申し訳なさと、ありがたさと、安心したのとで、3人とも息をするように「ありがとうございます、ありがとうございます」と言い続けながら釣った小サバと一緒に乗車しました。
吉本さんは伊豆大島生まれ。
これまで何度も大島に通っているあゆみちゃんとは、共通の知人が何人かいたようです。私とNちゃんは初めてだと知ると、大島についてラフにお話ししてくれました。
実は今日の昼間、私だけキョンを見たのです。
島に柴犬サイズの小さな鹿がいると聞いてはいたのですが、まさか見られると思っていなかったので、ぼうっと立ち尽くしているうちに緑の中に消えてしまいました。
白い尻尾が上下に軽々と跳ねながら遠ざかっていきます。
でも実はこのキョン、大島では積極的に駆除しなければならないほど急速に繁殖している害獣で、吉本さん曰く「島民を見つけるほうがレア」。島では人間よりもキョンのほうが多いのでしょうか。
しかしこの連載、もともとナイフ一本で山に入って自給自足するのを目標に始まったわけですが、あの時キョンを追いかけて(追いつけない)、ナイフで仕留めて解体(どうやって)できたかと言われると……。
まったく自信がありません。だいたい誰にも何も言われてないですが。それはおいといて。
賑やかな車内で黙々と運転していたお母さんが、小サバの調理方法の話になった途端、「竜田揚げ!」とはっきり声をあげました。
無事に、宿に、着いたー!
心から御礼申し上げます。
吉本さんとお母さんに心から御礼申し上げました、本当に。心から御礼申し上げますとはこのこと。
そして落ち着いてみると、めちゃくちゃ寒い。体が冷え切っています。日暮れ後の港は寒かった。
これから調理をして、食べているシーンを撮影するみたいな仕事が待っているのですが、社会性と協調性をあっさり捨てて、Nちゃんに「私の写真、もういらないですよね?」と言いました。聞いたんじゃなくて、言いました。
「つまり、私は、いますぐ風呂に入り、化粧を落として温まりたい……」
なぜかあゆみちゃんが「いいんじゃない?」と言い、料理もしていてくれることに。
小サバは、全部唐揚げにすることに決まりました。
シャワーを浴びながら、「申し訳ない」を上回る「夕飯作ってもらうの最高〜」な気持ちに包まれていました。
部屋着に着替えて、髪をざっくり拭いて、一応菜箸持ってみたりなんかして、手伝ってるふりをします(邪魔)。
あゆみちゃんは昔からすごく料理上手な友人です。
夕飯のメインは、塩胡椒してレモンを絞ったシンプルな小サバの唐揚げ。
それから島で買った野菜のラタトゥイユ、ナスの揚げ浸し、冷やしたトマト。おじさんからもらったイサキはお刺身に、カニはスープにしました。
テーブルに料理が並ぶと、おじさんがくれたイサキとカニの存在感がすごい。日中のおやつもおじさんがくれたビワだったし、頭が上がりません。
ちなみにおじさんと会う前に私もビワを買ったのですが、伊豆大島はビワが破格で大量に買える素敵な島です。
やっと3人とも落ち着いて座って、ビールで乾杯! 最高だー! 最高だー……。
えっ、これが最高って感情ですか。
どの料理も遊び疲れて空っぽになった胃袋においしく収まっていくけれど、やっぱり自分で釣った小サバは、小さいのに一匹でもお腹いっぱい。というか、胸がいっぱい。
でも3人ともペロリと平らげました。ふたりも「なんかお腹いっぱいになる」と言い合っていて、それはいつも以上に全身で集中して食べるからかもしれない、と思いました。
お腹いっぱい、体はくたくた。でも心は充実していてのんびりです。
思い出せないほど久しぶりに睡眠薬を飲まずに、眠りに落ちていました。
【次回予告】
なんと明日は山登り。で、す、が、バッテリーが上がったクルマの存在、忘れていませんか? 帰りの船は時間が決まってるので、逆算すると結構早起きしてレンタカー屋さんと連絡を取らなければいけません。そもそも繋がるのか。そしていろいろ間に合うのか私たち……!
【撮影協力】
青とサイダー
℡.090-4919-1981
mail:info@aotocider
東京都大島町波浮港4
https://aotocider.com
【プロフィール】
姫乃たま(ひめの たま)@Himeeeno
1993年、東京都生まれ。10年間の地下アイドル活動を経て、2019年にメジャーデビュー。同年4月に地下アイドルの看板を下ろし、文筆業を中心にトークイベントにも数多く出演している。2015年、現役地下アイドルとして地下アイドルの生態をまとめた『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)を出版。著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)、『周縁漫画界 漫画の世界で生きる14人のインタビュー集』(KADOKAWA)など。音楽活動では作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『パノラマ街道まっしぐら』『僕とジョルジュ』などがある。