ナイフは危ないものじゃなくて、人を“生かすもの”。親子で一緒に学ぶ「ナイフ育」
「キャンプから学ぶ」をテーマに、親子がキャンプを通して学べる“新しい視点”を提案する連載。各回その道に精通したゲストを迎え、子どもとキャンプへ行ったときにできる自然の学びをお伝えしていきます。今回のテーマは、「キャンプ×ナイフ育」。
■”ナイフ”は危ないだけのもの?
お肉や野菜を切ったり、魚を捌いたり。ナイフや包丁といった刃物は、わたしたちの生活になくてはならない道具です。
しかし便利な反面、取り扱いには細心の注意が必要です。これは言わずもがなですよね。
とくに小さい子どもには、“ハサミであっても積極的に触ってほしくない“というのが親のホンネ。子どもの安全を守るために“危ないものは回避する”、これは親として当然の心情だと思います。
かくいう筆者も小さな子をもつ親なので、ハサミを持っていたら冷や冷やします。だってケガするかもしれないし……。
でも、ハサミやナイフを使うことで、モノづくりや料理の楽しさを知ったり、危険なこと、安全なことへの意識を育んだり、いい機会になるのも事実。
“危ないから”という理由だけでその機会を奪ってしまうのは、子どもの想像力や好奇心を狭めてしまうのではないかと、親としてはとても悩ましいところ。ですが、そもそも親がナイフの安全な使い方を知らないと、教えることってできませんよね。
今回は、「子どもに安全なナイフワークを教えたい」と考えている親御さん、そして「基本的なナイフの扱い方を知りたい」キャンパーに向けて、安全なナイフの扱い方をご紹介します。
ただ、言葉と写真だけは行き届かない部分もあるため、この記事では要点だけをまとめることにしました。詳しく学びたい方は、記事末に紹介している動画や講習会を参考にしてください。
■「キャンプ×ナイフ育」を教えてくれる人
ワイルドライフクリエーター 荒井裕介さん
ナイフ歴40年。サバイバル、ブッシュクラフト、バグアウトスキルを活かしたスクールを主宰。私生活では3児のパパであり、長女は2歳半からナイフデビュー。
狩猟やクラフト、料理、アウトドアギアのレストアなどアウトドアや野外活動に造詣が深く、著書に『アウトドア刃物マニュアル』、『サバイバル猟師飯』、『TARP WORK』(いずれも誠文堂新光社)がある生粋の野遊び人。
荒井裕介you ちゃんねる
https://www.youtube.com/channel/UC44o83YZz4HXFnp85V8u3nQ
■ナイフは生活を豊かにするものだ
こんにちは。ワイルドライフクリエーターの荒井裕介です。僕は3歳のときに父からシースナイフ(アウトドアで使われるケース付きの小型ナイフ)を持たせてもらったことがきっかけでナイフに魅了されました。
近年、ナイフは子どもには危険な道具とされていますが、本来は危険ではなく、一番原始的な道具であり、情操教育において大切な知識と技術を学べるものだと考えています。
ナイフは〈道具〉と〈武器〉、その両面を持っています。〈道具〉として正しい扱い方を覚えることで、道具への知識と愛情を育て、〈武器〉としての使用をなくしたい。これが僕の想いです。
道具で、道具を生み出す。道具を生かして、生活を豊かにするー。
ナイフを通じて、考える、活かす。そして所持する責任を学んでほしいと思っています。
■荒井さん流「キャンプ×ナイフ育」のポイント
・まず推奨年齢について
僕の娘は2歳半でナイフを扱い出しました。でも、さすがにこの年齢で“スパッと切れる“ナイフを渡すのはハードルが高い。そこで、“ギコギコと切る“ような空き缶で作ったナイフや、鹿の骨で作ったボーンナイフで食材を切ることからスタートしました。市販のアウトドア用ナイフなら4歳以降を推奨します。
「4歳でナイフは早すぎる」と思われるかもしれません。でも、物事の善悪がついていない幼少期からナイフの扱い方を教えることで〈責任感〉や〈愛情〉、〈道具への知識〉を育むことにつながると僕は考えています。
ただし、これは親がナイフの安全な扱い方を心得ていることが大前提です。今回は親御さんの学びにもなるよう、知っておくべきナイフの基本をお伝えしていきます。
・用意するもの
○長袖・長ズボン
○手のサイズに合った革の手袋
(ゴム引きの手袋でもOK。ただし軍手はNG)
○アウトドア用のナイフ
(モーラナイフの「コンパニオン」や「エルドリス」、オピネルの「先丸ファーストオピネル」といったナイフが貫通しないシース付きのモデルが好ましいです)
※先ほどアウトドア用ナイフの推奨年齢は4歳以降と書きましたが、これはあくまで目安。お子さんの様子に合わせて選んでください
○太さのある木の枝
・ナイフの基本的な扱い方
《基本STEP1》ナイフの握り方
ナイフの握り方は、中指、薬指、小指の3本で握ってから、人差し指と親指の股の中心にナイフがくるようにします。
人差し指と親指はガイドとして利用するだけで、力は込めません。
《基本STEP2》シースに収める、出すを練習する
握り方を覚えたら、次はシースに収める、出すの練習をしましょう。
周囲に人がいないことを確認してから、ナイフとシースをしっかり目視して正確に抜き差しします。ゆっくりでいいので、空振りすることがないよう、しっかり目で見て行います。
写真では腰に下げていますが、最初は首から下げて扱える「ネックタイプ」が目視しやすいのでおすすめです。
・キャンプでナイフを使ってみる
《応用STEP1》バトニングにチャレンジ
バトニングとは、ナイフで薪を割ることです。ナイフの基本の扱い方がしっかり身についたら、バトニングにチャレンジしてみるのもいいでしょう。
バトニングでは決してナイフの先端部分を叩いてはいけません。折れてしまう可能性があり危険です。また、力づくで叩かないようにします。
《応用STEP2》枝を削ってみる
焚きつけ用に枝を削ってみるのもいいですね。削る際はナイフを動かすのではなく、ナイフを固定して対象物(木)を引くように動かします。
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これらに慣れたら、ブレードの付け根からカーブエッジまでをしっかりと使う練習をしたり、エッジを滑らせて使ったり、ステップアップしていきます。
■とくに注意したい7つのこと
1、どんな時でも、ナイフより前に手を出さない
イメージしてみてください。“刃より前に”手が出ていなければ、ナイフによってケガをすることはありませんよね? どんな時でも、ナイフより前に手を出さない。これを徹底しましょう。
2、両足の間で作業しない
ナイフは必ず体の外側で。両足の間で作業するとケガの恐れがあります。
3、ナイフの受け渡しは〈横並び〉で
対面でのナイフの受け渡しは、フィールドではNGです。なぜなら刃を少ししか保持していないので、不意に刺さってしまうことも考えられるからです。フィールドは不整地。つまずいてしまうこともあり得ます。
そのためナイフを受け渡しするときは、横に並んだ状態で行うと安全です。
4、ナイフを抜き身の状態で置かない
ナイフを出したあとはテーブルなどに置かず、使わないときはすぐシースにしまいましょう。抜き身で放置は、厳禁です。
5、ナイフはきれいに保つ
全ての作業を終えたら、または作業ごとにナイフが汚れていたら綺きれいにします。汚れを落とすとナイフを衛生的に保てるうえ、刃こぼれなどの破損に早く気が付けるからです。
細やかなチェックやクリーニングはより快適にナイフを使用できる環境を作り出します。
6、しっかりと切れる状態に研いでおく
切れない方が安全と思われがちですが、実は切れないナイフの方が危ないです。切れる=力を使わずに作業ができます。
力で無理やりナイフを動かすことは事故に繋がります。切るのに力はいりません。刃を動かすことが大切です。
7、周囲に気を配る
ナイフを使うときは、「両手を広げた状態で、内側に人がいないとき」に使用します。
人が来たら作業をやめましょう。作業だけに集中せず、周囲への意識も忘れないように。
■便利な道具として “ナイフ” を身近に
決してナイフは危ないものではありません。正しく使えば、安全で便利なものです。
「作る・使う・活かす」を普段の生活に取り入れ、ナイフを便利な道具として身近に感じてほしいと思っています。
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■詳しく知りたい人は
荒井さんは『Bush Craft & Bug Out School』を定期的に開催中。子どもと一緒にナイフワークを学びたい方、子どもにナイフワークを教えてほしい方に向けた講習会もあるそうなので、詳しくは荒井さんのFacebookをチェックしてみてください。
またこちらの動画に今回ご紹介した内容が詳しく紹介されているので合わせてご覧ください。
ナイフの選び方と使い方を知る。子供と学ぶナイフのルール!番外編。 - YouTube
https://www.facebook.com/shashinkaaraiyusuke
YouTube
『荒井裕介you ちゃんねる』
https://www.youtube.com/channel/UC44o83YZz4HXFnp85V8u3nQ
取材/山畑理絵
文・写真/荒井裕介、山畑理絵(一部)