「登山を楽しむ日本人のため」、23年前に生まれたカリマーの“定番リュック”
変わらずに愛されているアウトドアアイテムがある。機能性なのか、はたまたデザインなのか、長く選ばれ続けるにはそれなりの理由があるのだろう。そして同時に、多くのキャンパーやハイカーの思い出も含まれている。そんな逸品の歴史を辿る企画、第四回目はカリマーのリュックサックだ。
「サイクルバッグ」メーカーから、冒険家から信頼される「リュックサック」メーカーへ。
1946年、イギリス北西部にあるランカシャー州で誕生した「カリマー」。今となっては登山のイメージが強いカリマーだが、実はサイクルバッグメーカーとして創業したのが始まりだった。
カリマー(karrimor)の由来は、「carry more=もっと運べる」。必要な道具を過不足なく運ぶことのできるタフで機能的なサイクルバッグは、次第に登山家にも知れ渡ることとなり、クライマー向けのリュックサックを手掛けるようになっていく。
サイクルバッグで培ったノウハウを生かし、クライマーの要望に耳を傾けながらリュックサックの開発に勤しむ。そうして生まれたのが、一本締めタイプの「ピナクル」だ。カリマー発足からおよそ11年後の1957年、カリマーの“第二章”が幕を開けた。
その後も、世界の名だたる山に挑戦する登山家を支援しながら、彼らの目的にかなう商品を開発し続けていく。
その熱意の甲斐もあってか、カリマーのリュックサックは世界各国の遠征隊に採用され、クライマー御用達のメーカーとして確固たる地位を築いていった。1975年、女性として初のエベレスト登頂を果たした田部井淳子氏もカリマーのリュックサックを背負っての登頂だった。
こうして数多くの遠征隊から絶大な信頼を得たカリマーだが、現状に甘んじることなく、次々と新たな開発に取り組んでいく。
1983年には、“背面長を無段階調整できる”という、これまでのリュックサックには考えられなかった画期的なシステムを発表。人間の体型は人それぞれ。ならばリュックサックの背面を、身長や体型に合わせて調整できるようにしようと考え、それを可能にしたのだ。
この〈SAシステム〉のおかげで、誰でも自分に合ったフィット感を得られるようになり、カリマーの評判はますます高まっていった。
登山を愛する日本人のために生まれた「リッジ」
1990年代になると、日本におけるカリマーを象徴するベストセラーモデルが誕生する。「リッジ(ridge)」シリーズだ。
「当時(1990年前後)は中高年登山ブームが起こり、70年代に若者で登山を支えてきた世代に加え、新たに登山を始めた方々も加わり、自分のスタイルに沿った登山を目指すようになりました。それに伴い、クライミング指向のモデルからトレッキング指向のモデルへと主流が移行。おもなユーザー層が中高年になったことで、見た目の勇ましさよりも「実質的に楽で使いやすい」リュックサックへとユーザーの求めるものが変わっていったのです」
と、カリマーインターナショナル 広告宣伝部の中島氏は話す。
ベースとなるモデルは英国のラインナップから選定し、日本人の体型を考慮した背面システム、日本のユーザーの好みに合う仕様やカラーに仕上げた。というのも、当初イギリスで販売されていたリッジはイギリス人の体型に合わせて作られていたため、日本人向けに開発する必要性があったという。
「特に女性の体格差は大きく、測定値では決められない微妙な修正が必要でした。標準的な体型の女性に実際に背負ってもらい、フィット感などを微調整。また女性は年齢とともに背中が丸くなり、肩が前に出る巻き肩の方が増えることも考慮して設計。カラーに関しても、開発当時は地味なカラーが多かったので明るいカラーを中心に展開しています」(中島氏)
努力と時間を費やし開発されたリッジはやがてカリマーの“顔”となり、20年以上に渡りユーザーから支持を得るベストセラーモデルとなっていく。
「リッジのメインコンセプトは「楽で使いやすい」ですが、10代目モデルのサブコンセプトは「Versatility(多機能性)」にしています。シンプルな見た目のなかにある、多彩な機能。オールシーズン、オールラウンドなリュックサックを目指して開発されました」(中島氏)
表向きは分かりづらいかもしれないが、リッジはモデルチェンジごとにこういった“サブコンセプト”も設けられているそうだ。
「10代目モデルは大容量のフロントポケットが特長的で、ヘルメットも収納できる広いマチ付きになっています。また特殊な型紙を採用した立体構造のヒップベルトもポイントで、腰骨の出っ張りが当たる部分を凹むように設計し、締めた時にフィットするようにしています」(中島氏)
このヒップベルトは、重量挙げの選手が巻いている腰ベルトと同じ要領で、背骨をきれいな形で保てるように背筋をサポート。その結果、体幹がいい状態になり足上げも楽になるそう。
こうした独自機能のほか、サイズ展開が複数用意されているのもリッジの魅力。30L、40Lの容量ごとに、背面長の長さが異なるスモール、ミディアム、ラージがある。体格に合わせて選べるので、小柄な人も、高身長の人も、それぞれに合ったフィット感が得られるのだ。
背負ってラク。使ってラク。見た目のカッコよさだけでなく、“背負い心地のよさが核にある”からこそ、リッジは長年愛されるのだと筆者は思う。
ちなみに、2022年春に同シリーズに「リッジ+(プラス)」が新登場。大きな変更点は生地で、210デニールのミニリップストップナイロンと420デニールのハイデンシティナイロンが使用され、より丈夫なつくりとなる。また、ヒップベルトにはベルクロがつき、着脱によって微調整できるようになった。
展開する容量は、これまでの30L、40L、そして新たに50Lが加わり、より幅広い用途に対応する。そこまで荷物が多くないハイカーなら、50Lはテント泊でも活躍してくれるだろう。
現在、カリマーのウェブサイトでリッジ+の先行予約がスタートしている。実物が見たいという方は店頭販売を待とう。
周りに埋もれない、カリマーの強み
登山用リュックサックの選択肢は、とてつもなく多い。ひとたびアウトドア専門店に行けば、大きさもサイズもさまざまなリュックサックが壁一面にずらりと並んでいる。
そのなかでカリマーは、どういったところを競合他社と差別化しているのだろうか?
「カリマーは誰にでも合う可能性を大切にしています。その中でも強みはフィット感で、人間工学に基づいた設計が他社との違いと自負しております。リュックサックの快適性を上げるためには、運動性を妨げず、さらに背中の上で安定させることが重要。ですが、この二つは相容れない関係性で、両立しがたい。そのため、いかに双方のバランスを取って快適性を上げることができるか、日々追求しています」(中島氏)
年々変化するニーズに対し「今ユーザーが何を求めているのか?」を細かく拾い上げ、開発に反映しているカリマー。
売れているモデルをさらによりよく改良する姿勢、そのフットワークの軽さは、“企業努力”があるからこそ。カリマーは山を楽しむ私たちの“背中”を、快適にサポートし続ける。
取材協力/カリマー https://www.karrimor.jp
写真提供/カリマーインターナショナル、山畑理絵(一部)