【WEB限定コラム】みちのく潮風トレイルを行く 本編 Vol.5
文・写真/斉藤正文
本編 Vol.5 アメリカのトレイルのような出会いだ!
今回のルート:
女川町(宮城県) → 石巻市 → 南三陸町 → 気仙沼市 → 南三陸町
10月初旬は一度自宅で体制を整えて、飼っているニャンコちゃんたちに癒され、北海道・美幌町で新たなトレイル「屈斜路湖カルデラ外輪山トレイル」の活動を拝見しました。いろいろな方と出会い、熱い想いを聞かせて頂いて活力をもらいました。「よし行くぞ!」と再び、勢い良くトレイルを出発したのは良かったのですが、久々に背負う荷物の重さと、直ぐに登る石投山の急斜面に少し凹むのでした……。
みちのく潮風トレイルの山々は標高の低い山が多いのですが、海辺から登ることが多いので、仮に400mの山だとしても、0mから400mを登ることになります。400mを一気に登って降りるのは、なかなか難儀ですね。
石投山は、山頂の木が伐採されていていい眺めなのですが、どうもこの日は、天候が安定していなく、眺望もあまりありませんでした。トレイル復帰から2日間程度は天気が良くない予報なので覚悟していました。また、週末に最強クラスの台風がくるとのことでしたが、この時点では具体的な対応はまだ考えていませんでした。台風の進路は変わることも多いので、いつものようにギリギリまで様子を見ようと考えていたのでした。
いつも歩くアメリカのトレイルなら、ある程度予定を組んで、予測どおりテントを張れるのですが、日本のトレイルでは私有地や町場が多いので、ざっくりとした予定を組み、テントも直前までどこに張るかわからないという歩き方をするしかありません。時には予測が外れて、日が暮れる寸前まで歩くこともあります。
トレイルに復帰して2日目、夕方に石巻市の名振漁港に着いた僕は、この先の山越えの行程と、日暮くらいに降りだす雨の予報を考えて悩んでいました。山越えして行くには時間がないと思い、偶然クルマで通りかかった漁師さんに「このあたりでテントを張ってもいい場所ありますかね?」と聞いてみたのでした。
「火の始末さえちゃんとするなら、うちの小屋の前に張ってもいいよ、沢から引いた水もあるし」
なんてタイミングなんでしょうか! すぐさま「ありがとうございます!」とお礼を言い、小作業小屋の前にテントを張らせてもらうことにしました。漁師さん(お名前は山石さん)は敷地に砂利が敷いてあるので痛いだろうからと言って、ゴムマットまで敷いてくれたのでした。
雨でびしょびしょに濡れていたテントを張り、まだ食べいなかった遅い昼食を食べていると、山石さんが戻って来きました。
「サカナは全部出しちゃたから、これ食べな!」と言って、ホヤを持ってきてくれたのでした。この作業小屋は、東日本大震災の前に山石さんの自宅があった場所だそうです。現在は、石巻市の町場に家を建てたそうですが、通うのが大変なので名振にアパートを借りて仕事をしているとのこと。新しく建てた家には娘さんが住んでいるのですが、帰ることができるのは年に10回もないそうです。
若い頃マグロ漁船に乗られていたという山石さんは、世界各国をまわっていたそうです。そのときに集めた記念の品物や、趣味で集めているミニカーを展示する部屋を自宅に作っていたそうですが、すべてが津波に流されてしまい、残ったのはたまたま腕にしていたロレックスの時計だけだったそうです。あの日の津波で、家も船も何もかもが流されてしまった。そんな話をしていると雨が振りだしてきました。すると、小屋の戸を開けて、整理すると、今夜ここに寝てもいいからと言ってくれたのでした。「電気も使えるから」と言ってコンセントや電気をつけるコードを教えてくれました。また少し話をして、山石さんはアパートに帰っていったのでした。
アメリカのトレイルのように、こうした偶然で素敵な出会いがあり、あたたかさに触れることができるとは思っていませんでした。
頂いたホヤは、ウニのクリームパスタに入れておいしく頂きました。名付けて「ウニと濃厚ホヤのパルメザンチーズたっぷりのせパスタ」です。今回のみちのく潮風トレイル旅でつくった「トレイル飯」の中でNo.1の逸品になりました。
いよいよ来週あたりから、ルートは岩手県に入りそうな予感です。
つづく
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