家族3世代で訪れる「グランピング+民家」というかたち【glaminka SAYO集落】
兵庫県佐用町に今年オープンした「glaminka SAYO集落」は、古民家を再利用したグランピング施設。それぞれ異なる建築家が手掛けた個性的な4つの宿泊棟では、アウトドアとホテルが融合したような他にはない宿泊体験ができる。「glaminka」の名は「グランピング」+「民家」が由来だという。
所在地は、長いあいだ人が住んでおらず、廃村状態にあった同町の若州集落。同施設は集落内の空き家6棟を買い取るところからスタート。それらを改修して、丸ごとグランピング施設にするという壮大かつ画期的なプロジェクトだ。
経営者の一人、大野篤史さんは「まったく新しい場所にするのではなく、集落に積み重なったストーリーを引き継げるところにしたかった」と語る。そのため改修時に出た床板、土壁の土、石やわら、農機具、倒木といった集落内の素材をできる限り再利用している。
現地に住み込みながらの集落の再生作業は半年間に渡った。東京、京都、神戸、岡山、福岡から集まった職人を中心に、20人以上のメンバーで宿泊棟とセンター棟を作り上げた。「職人さん以外のメンバーはまったくの素人。共同生活のなかで技術を学びながら作っていきました。DIYというよりDo It Together、DITという感じ」(大野さん)
同施設ができあがる頃には、それまで佐用町のことを知らなかった参加メンバーが、涙を流しながら「何度でも帰ってきたい場所」と話すまでになった。廃村に近い状態になっていたこの土地に愛着を持つ人が増えた意義は大きい。「土地への愛着が、人口減少地域の課題解決につながるキーワードだと思うんです。この過程を経て出来上がったglaminka SAYOが、地方創生のひとつの足掛けになればこんなにうれしいことはありません」(大野さん)
センター棟はゲストの宿泊受付等を行うことに加えて、地域交流拠点としての場を担っている。しっかりと地域に根付き、地域の内外の人から愛される場所に育てていくのだ、という想いが伝わってくる。
宿泊棟はそれぞれ「波床の家」、「土壁の家」、「まゆの家」、「フレームの家」をコンセプトとする、唯一無二の形になった。古き良き日本文化の風合いが残る古民家の趣と、焚き火などアウトドアスタイルが両方楽しめる同施設は、幅広い年齢層のゲストから好評を得ており、家族3世代で訪れるゲストも多いという。自慢の夕食は、囲炉裏テーブルで地産の食材をゆっくり味わえるBBQスタイル。「久しぶりに家族でゆっくり食事ができた」という声も寄せられる。
「新しく、でもどこか懐かしい場所になっていると思います。昔のライフスタイルに思いを馳せながら過ごしてもらえたらうれしいですね。そして家族の絆をより強く結びつける、また帰ってきたいと思うような場所にしていきたいです」(大野さん)
大野さんと共同経営者の大西猛さんは二人とも神戸市の元教師。採用同期だった二人は十数年にわたってそれぞれ教壇に立った。その後、大野さんは教育現場の枠を超えてチャレンジしたい気持ちが芽生え、大西さんはカナダへの留学経験を活かしてステップアップしたい思いが生まれていた。再会した二人は「笑顔が生まれる場所を作りたい」と意気投合。glaminkaをスタートすることとなった。
教員時代の経験はサービスにも生かされている。ゲストが土鍋を使って地元のお米を炊く同施設の人気体験は、大野さんが小学校教員時代に行っていた野外宿泊の経験から生まれた。飯ごうで炊いたごはんを「家のごはんよりおいしい」と喜ぶ子どもたちの姿が印象的だった。実際にはごはんは焦げたり、生煮えだったりすることもあり、どう考えても自宅で炊飯器を使って炊いたごはんの方が美味しそうだったにも関わらず、だ。
「自然の中で友達と苦労して炊いたごはんは、彼らにとって最高のごはん体験だったんですね。自分で薪をくべたストーブは、ただスイッチを押すだけの石油ストーブより、心まで温かくなる。どちらも同じですよね」(大野さん)
人の少なくなった場所を再構築することで再び人が集い、土地に根付いたストーリーや生活様式を味わいながら交流や生業が生まれていく。同施設での宿泊体験はかつての暮らしを慈しむと同時に、未来の地域社会の可能性を垣間見ることができるだろう。
glaminka SAYO集落
https://glaminka.com/sayo/
兵庫県佐用郡佐用町若州568-1
*宿泊予約はHPより。