日本流BBQコンロ誕生の背景に、アメリカで見た「1975年のBBQ風景」
変わらずに愛されている、アウトドアアイテムがある。機能性なのか、はたまたデザインなのか、長く選ばれて続けるには、それなりの理由があるのだろう。そして同時に、多くのキャンパーたちの思い出も含まれている。そんな逸品の歴史を辿る企画、第一回目はキャプテンスタッグのバーベキューコンロだ。
アメリカで目にした光景が、日本にバーベキュー文化をもたらす
アウトドア用品の総合ブランドとして、バーベキューコンロや焚き火台といった火器から、テント、ファニチャー、ランタンなどキャンプに必要なアイテムを全て網羅している「キャプテンスタッグ」。1976年創業して以来、ドメスティックアウトドアブランドとして日本のキャンプブームを牽引してきた。
そんなキャプテンスタッグの“本当”のはじまりは、1975年のアメリカでの出来事に遡る。
当時、金物製品を扱うパール金属株式会社(のちのキャプテンスタッグの親会社)を営んでいた高波久雄氏と高波文雄氏。彼らは、市場調査のため渡米。その際、通りがかった公園である光景を目の当たりにし、大きな衝撃を受けた。そこには、大型グリルを使ってバーベキューを楽しむ家族の姿があったからだ。
昨今の日本では、夏の恒例行事ともいえるバーベキュー。ホームセンターに行けばひと通りの道具は揃うし、バーベキュー用の網や木炭などはスーパーや100円ショップでも手に入るほど身近なアイテムになっている。
しかし、45年前の日本にはバーベキュー用のコンロはもちろん、網すらもなかった。屋外で使える火器といえばコンパクトな七輪が主流だったため、大型のグリルを目にした2人は大きなカルチャーショックを受けたのだ。
自国になじむバーベキューコンロを求め、開発に没頭
帰国後、文雄氏はアメリカで見かけたバーベキューのスタイルを日本で再現しようと動き出すが、なんせ網もコンロもない。そこで、家にある“意外なもの”を活用しようと思いつく。金属製の玄関マットだ。
今ではほとんど目にする機会がなくなったが、当時の玄関マットは長方形の金属フレームに格子状の鉄線が張られ、その間に靴底の泥を払うブラシを付けたものが使われており、「ブラシ部分を焼いて取り除けば網の代わりになる」とヒラめいたのだ。
レンガブロックを積み立てて囲炉裏を作り、その上に網に見立てた玄関マットを乗せ、豪快に肉を焼く。この体験を機に、「アメリカのバーベキュースタイルを日本でも浸透させたい」と思った文雄氏は、自国の文化に合ったグリルの開発にのめり込んだ。その結果、日本のバーベキューコンロの元祖といえる「ジャンボバーベキューコンロA型」が誕生したのだ。
コンロの形は、収納が少ない日本の家屋を考慮し、据え置きではなく収納できるトランク型を考案。日本で馴染みのあるカマドをモチーフに、組み立てて使える構造にした。
サイズは、40×60cm。これは試作のときに使った玄関マットのサイズそのままで、現在もこのサイズがバーベキュー網のスタンダードになっている。まさかあのバーベキュー網が昔の玄関マットに由来しているなんて、じつに興味深い。
では、肝心の市場の反応はどうだったのだろうか?
「最初は驚かれたと思いますが、弊社のジャンボバーベキューコンロA型が世に出たのが1976年、第一次キャンプブームが1990年代ですので、コンロを使って庭でバーベキューするところから徐々にキャンプしてみようという流れに結びつき、のちのキャンプブームに繋がっていったのではないかと感じています。そういった背景をふまえると、多くの方に受け入れてもらえたのではないでしょうか」
と、キャプテンスタッグアウトドア事業部の吉田直城氏は話す。
「また最初は本体カラーがブラックのみだったところから、グリーンやオレンジを追加していったり、炭受けを取り付けて使いやすく改良を重ねていったり発展していったことからも、ジャンボバーベキューコンロA型が世の中に浸透していったことが伺えます」
その後、1990年代に入り第一次キャンプブームをむかえ、「ジャンボバーベキューコンロA型」のトランク型を進化させた「アーガス V型バーベキューコンロ」を発売したところ、これが大ヒット!
「ジャンボバーベキューコンロA型」はコンパクトに収納できるメリットがあったものの、組み立て時にはネジと工具が必要で、それなりの手間がかかっていた。しかし「アーガス V型バーベキューコンロ」はネジ不要でトランクを開いただけですぐにバーベキューが始められる。手軽なコンロとして大きく進化した。
さらにV型にすることで火床がコンパクトになり、少しの燃料で楽しめるようにもなった。また後に素材も鉄からステンレスに変更し、錆びにくく頑丈さも兼ね備えた仕様の商品も追加した。
そもそもV型というカタチ自体もコンロとしては日本初で、画期的。この「アーガス V型バーベキューコンロ」の登場によりバーベキューコンロはますます便利なアイテムとなり、多くの人々を屋外レジャーに連れ出していったに違いない。
45年愛され続けるゆえんとは
こうして数々のアイデアを詰め込み、日本のバーベキュー文化を開拓してきたキャプテンスタッグ。現在はバーベキューコンロだけで40を超えるモデル数を誇り、ツーリングやソロキャンプ、大人数のパーティー向けなどユーザーの細かなニーズに合わせてコンロを選ぶことができる。
2017年には「ジャンボバーベキューコンロA型」をオマージュしたソロ用のグリル「カマド スマートグリルB6型」を発売。これが予想を大きく上回る爆発的な大ヒットを記録する。しかし、これは予想外の出来事だったという。
当時バイクツーリングを趣味とする社員が少数おり、「バイクで持ち運べるような小さなバーベキューコンロを出してみたらどうだろうか」という声が上がった。しかし社内では「そんな小さいグリルは使いにくい」とマイナスの意見が多かった。それもそのはず、企画時にはまだ“ソロキャンプ”という言葉が世間に定着していなかったからだ。
しかし、いざ販売してみるとこれが予想をはるかにこえる爆発的な大ヒットに! いち早く購入したユーザーが使っている様子を動画で紹介したり、SNSで話題になったりしたことが相まって「これは便利だ!」とソロ派のキャンパーから支持を受け、ものの1~2か月で完売する大反響となった。
仕様は違えど、約40年の時を経て「ジャンボバーベキューコンロA型」の面影残るモデルが、現代のキャンパーにも受け入れられたのだ。
ちなみに、これまでの概念を覆すアイテムを生み出したり、製品の使いやすさだったり、リーズナブルな価格の観点から見ても、キャプテンスタッグは業界で群を抜く存在。こうした背景には、並々ならぬ企業努力がある。
「カマド スマートグリルB6型に関して言えば、ステンレスの板を使っていますが、軽量化のため薄くしつつも、熱で変形せずに持ち運ぶのに苦にならないバランスをとった板厚を追及して作りました。さらに、板なので適当なサイズに裁断するわけですが、切りっぱなしでは鋭利なので、手を切ってしまわないように裁断面を曲げる加工もしています。ここは正直コストのかかる作業ですが、安全性を高めるために細部の仕上げにおいても手は抜きません」
とくにコンロは火を使う製品だ。むろんケガや事故なんぞあってはならない。安全性を担保しながら買いやすい価格を実現するというのは、並大抵の努力ではできないはずだ。
さらにキャプテンスタッグでは、他社より厳しい品質テストを行っている。
「例えばチェアやベッドなど体重のかかるアイテムは、3倍の静止荷重をかけて試験しています。60kgの耐荷重なら180kgまで耐えられたら合格です。厳しい品質基準を設けて日々テストを行っています」
お金をつぎ込めばいいものができるのは当たり前。しかし、ユーザーの買いやすさを考慮するとメーカーとしては頭を悩ませるところ。双方のバランスを取ることは容易じゃない。
「『頂点を目指そうとするあまり、保守的な発想へ傾きかけたり、造作にこだわりすぎて価格的に手が届かなくなったりしてしまっては、存在する意味がない』という考えのもと、使いやすさ、購入しやすさを第一に考えた商品展開を目指しています」と、吉田氏は言う。
あらゆる側面で“ユーザーファースト”を意識しながら前進し続けるキャプテンスタッグは、今年で創業45年をむかえた。 日本にバーベキュー文化を築き上げるきっかけとなった「ジャンボバーベキューコンロA型」の発売からも同じ年月がたったわけだが、時を経てもそのDNAは多くのバーベキューコンロに継承され、網を囲む人々に笑顔をもたらしている。