「#vanlife」で投稿されるバン生活。物を減らすことで見えてくる自分
雑誌『TRANSIT』の元副編集長である池尾さん。現在は、京都在住のフリーランスとして活躍中です。これまで旅について考えてきた池尾さん(しかし、鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)が、本を通じて旅を見直します。
「今の自分に必要なものは何?」
書棚から手にとる度に、こう問いかけられているような気になるのが本書だ。
家を持たず、キャンパーバンに乗り、アメリカ北西部を行き先も決めずに走る。VOLKSWAGEN WESTFALIAに積む荷物は、ウェットスーツやキャンプ用ストーブをはじめ本当に必要なものだけ。本書は、そんな生活を3年間(走行距離にして16万km)実践した著者フォスター・ハンティントンが、道中で出会った同じバン生活者たちの暮らしぶりを撮りため、クラウドファンディングによって出版した写真集だ。
同時に、Instagramでもハッシュタグ#vanlifeをつけて彼のバン生活が投稿されると、たちまち人気を集め、現在フォロワーは100万人に到達する勢い。もはやハッシュタグ#vanlifeは一人歩きし、バンライフを愛する世界中の人々が集うコミュニティにもなっている。
もともとフォスター・ハンティントンは、ニューヨークで出版社ハーパーコリンズやラルフローレンのコンセプトデザイナーとしても働いていた、華やかな経歴の持ち主。そんな彼が23歳で仕事を辞め、家を引き払い、バン生活へシフトしたのは2011年のこと。トレンドや所有というキーワードから切り離せない業界から、「できる限り所有しない」暮らしへのシフトは、時代を逆行するように見えるものの、これほど多くの心を掴んでいるという意味では、これからの暮らしの在り方を先取りしているともいえる。
気が向いた時にサーフィンやスケボーをし、水平線から昇る朝日で目覚め、広大な荒野では焚き火をし、静寂な森ではハンモックでうたた寝……。本書で見られるバンライフは、どこを切り取っても自由を謳歌する幸せに満ちている。けれども、休日のコーヒーブレイクにページをめくってうっとりするだけでは、少しもったいない。
これまで長い間理想とされてきたのは、豊かさを求めて、物をたくさん持つ暮らし。けれど、断捨離やミニマリストというキーワードが浸透した今では、物を所有する=私たちの空間や時間や行動や思考が実はその物に所有されている、という考えもいよいよ定着しつつある。持ち物を減らすことは、私たちが無駄なスペースや時間、行動、思考といった様々なしがらみから解放され、「いま、自分が本当に必要なもの」のために使える自由を獲得することだ。限られた資金と積載量とともに移動をつづけるバンライフでは、所有するか否か?そのジャッジは自ずとシビアになる一方で、当たり前の思考として染み付いていくのだろう。そんなバンの住人の暮らしぶりが私たちに新鮮なインスピレーションを与えるのは、いま、自分が好きなもの・必要なものを知り、実践しているから。物を減らすのは、自分を知る作業とイコールなのだ。
バンライフに取り憑かれた著者だけれど、その後もバン生活を続けているかといえばそうじゃない。ワシントン州にある両親の土地を整備し、2つのツリーハウスとスケボーのボウルを仲間とともに造り、現在はそこを拠点に動画やスチール撮影などを仕事にしている。そんな理想郷ともいえる空間を1年かけて作った過程は、ビジュアルブック『THE CINDER CONE』や映像に収録されている。
とあるウェブのインタビューで、彼が放った言葉の清々しさたるや!
「I didn't want to live in a van forever.(一生バンに住み続けたいわけじゃなかったからね)」
(書名)
『HOME IS WHERE YOU PARK IT』
FOSTER HUNTINGTON・著
VICTORY JOURNAL
TEXT / 池尾優(編集者)
この記事は、日常・非日常問わず、暮らしが豊かになるようなアイデアを提案するメディア『日非日非日日(にちひにちひにちにち)』からの転載となります。