子どもだけのものじゃない社会の隙間に居場所を作る「秘密基地的想像力」
雑誌『TRANSIT』の元副編集長である池尾さん。現在は、京都在住のフリーランスとして活躍中です。これまで旅について考えてきた池尾さん(しかし、鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)が、本を通じて旅を見直します。
幼少期のなかでも、友達と秘密基地で遊んだ思い出は鮮明に残っていて、今でも思い出すと好奇心が掻き立てられるのはなぜ? この本が一冊を通じて紐解く「秘密基地的想像力」が理解できた時、長年抱いていた、もやっとした気持ちがクリアになった。
幼少時から多数の秘密基地を作り、大人になってからも「日本キチ学会」を立ち上げるなどし、秘密基地の在り方を研究している、建築家の著者による秘密基地遊びのノウハウ書。とはいえ、こうすべき・こう作るべき、などと秘密基地の在り方・作り方を断定しないのが本書。秘密基地に正解はないとし、秘密基地的アイデアを多方面から提示してくれる。例えば、自分に合った秘密基地タイプが分かるチャートや秘密基地遊びの思い出のある人に2,000枚以上ものアンケートをとり集めた実例、秘密基地的思考を呼び覚ます本の紹介などコンテンツが多く、雑誌のような作り。日本各地の砲台を、新しい空間に再生するプロジェクトを行う建築家や、ホームレスの家を研究するアーティストなどによる寄稿からは、大人の秘密基地的思考と、社会との接点をイメージしやすい。子どもが読めばもちろん、今日から遊びに活かせる内容満載だが、豊かな街や社会のためには、実は大人こそこの思考が必要なのでは、と思えてくる。
そもそも秘密基地とは、大人や他の子には知られない自分(たち)だけの遊びの拠点のこと。秘密基地と聞き、真っ先にイメージするツリーハウスのような場所だけがそうではない。都市部では、空き地はもちろん建物の死角も、自宅の屋根裏部屋や押入れの中だって秘密基地になる。たとえどんな場所でも視点を変え、社会の注意から逸れている隙間を利用すれば、自分(たち)だけの居場所は生みだせる。
社会や大人が設けたルールや空間上から離れて、社会の隙間に自分の居場所を切り拓いていくこと。そこでは主体性や想像力、仲間との繋がりなどは欠かせず、時には自然の怖さや社会の仕組みを身を以て知ることで、危機管理能力や行動への責任感が培われたりもする。秘密基地遊びで形成されるのは、IQを伸ばすことでは積み上げられない人間力。それは、働き方や有能な人材といった社会の仕組みが変わりつつある今、これからを生きるのに必要なものとも言える。
本書ではそのためのものの見方と、大小様々なアイデアを紹介していて、なかには目から鱗のものも多い。けれど、もしかして一番驚いたのは、この本に出会う何十年も前に、幼少期の自分がそれらを自然とやっていたことかもしれない。幼少期には誰もが持っていた思考が、大人になり社会のルールを知るにつれ、薄まってしまう。本書は、そんな忘れかけていた秘密基地的想像力をありありと思い出させてくれる。
(書名)
『秘密基地の作り方』
尾方孝弘(日本キチ学会)・著
のりたけ・イラスト
飛鳥新社
TEXT / 池尾優(編集者)
この記事は、日常・非日常問わず、暮らしが豊かになるようなアイデアを提案するメディア『日非日非日日(にちひにちひにちにち)』からの転載となります。