実践しながら循環する社会に気づくパーマカルチャーの超入門書
雑誌『TRANSIT』の元副編集長である池尾さん。現在は、京都在住のフリーランスとして活躍中です。これまで旅について考えてきた池尾さん(しかし、鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)が、本を通じて旅を見直します。
パーマカルチャーと聞いて思い浮かべるものはなんですか? ストイックな自然農法? それともヒッピーコミューンで実践されるライフスタイル?
一部のマニアックな思想の人々のものだと思われがちなパーマカルチャーだけれど、アメリカのポートランドでは行政とも連携した街づくりが成功しているし、中東の各地では砂漠の緑化に活用され、日本でも研修施設等が増え、ここ10年で知られるようになってきた。パーマカルチャーの認知は、世界中でどんどん広まっている。でも、そのイメージはちょっと掴みにくい。というのも無理はない。パーマカルチャーは、すそ野がものすごく広いのだ。
ごくごく簡単に説明すると、パーマカルチャーとは、パーマネント(永久な)+アグリカルチャ-(農業)+カルチャー(文化)を組み合わせた造語。1960年代にオーストラリアのビル・モリソンとデビット・ホルムグレンが自然破壊を引き起こす現代の大規模農業への対策として体系化したのが始まり。パーマカルチャーが目指すのは、生活に必要な全てを調和的に行うこと。植物のみならず、動物や人間、微生物など地球上の全ての生命が対象だ。だからパーマカルチャーは一つの農法でもなければ、食事法でもない。それどころか、方向性を示すのみで、決まったスタイル自体存在しない。
そんな、一見掴みにくいパーマカルチャーを、自ら実践し発信するソーヤ海氏が冒険隊長となり、難しい漢字にはフリガナをつけ、できるだけ易しい言葉を使い、楽しく紐解いてくれるのが本書。一冊を通してイラストが多用され、自分で色を塗ったり書き込んだりするページもあり、ページをめくる度にわくわくする仕掛けが詰まっている。A5ほどのサイズ感とガバッと開きやすい体裁で、ワークブックのよう。小学生以上の子どもなら、親子であれこれ言い合って一緒に読むのも楽しそう。
本書の初めには、パーマカルチャーで重要な3つのことを定めている。
1、 地球を大事にすること
2、 人を大事にすること(自分のことも)
3、 みんなで分かち合うこと、与えること
読者は、これらに則ったパーマカルチャーの冒険に出ることになる。地球を大事にするなんて、なにやら壮大なことに思えるけれど、載っているのは、どれも草の根的なアクションばかり。
例えば、工夫次第では家のどんな場所も畑になることを提案したり、川水の濾過や植物の朝露を集めるなど様々な方法で飲み水を確保する方法や、手入れされていない歩道の植え込みや空き地に植物の種を撒く、ゲリラガーデニングのススメなんてものもある。水面にできる波紋や、カタツムリの渦巻きといった自然のデザインのパターンを考えてみたり、家の近所にどんな生き物がいるかを調べてマッピングしたり、身近な自然を観察することで浮かび上がる自然のエネルギーについても紹介。また、お金を使わず得意分野を持ち寄ればやりたいことが実現できるとし、自分や友達のできることをリスト化するページや、1週間のごみの量を知るために行う「ごみを出さないチャレンジ」を促すページも。どれも、読者が現在進行形の暮らしのなかですぐに実践できるものばかり。
このコーヒー豆はどこからきた? あの苗木は10年後には実をつける? 食器洗いですり減ったスポンジはどこへいく? 生ゴミの行く先は燃えるゴミか、それとも土か?
本書を読んだ後は、目の前のオブジェクトに付随するさまざまな「→」が浮かび上がってくるかもしれない。「→」に慣れてきたら、それらのなかでも、自然の「→」を上手に生かしたやり方が、いかに無駄なく無理なく続けられるかがわかるはずだ。
(書名)
『みんなのちきゅうカタログ』
福岡梓・著
ソーヤ海・監修
TWO VIRGINS
TEXT / 池尾優(編集者)
この記事は、日常・非日常問わず、暮らしが豊かになるようなアイデアを提案するメディア『日非日非日日(にちひにちひにちにち)』からの転載となります。