身体の声に耳を傾け続けた旅の記録『BODY JOURNEY』
雑誌『TRANSIT』の元副編集長である池尾さん。現在は、京都在住のフリーランスとして活躍中です。これまで旅について考えてきた池尾さん(しかし、鼻炎持ち&虫に弱いので旅スキルは低め)が、本を通じて旅を見直します。
これを書いている今(2021年1月)も、感染者数・死亡者数が決まって取り沙汰される日々は続いているが、2020年は個人的にも生命について考えることの多い年だった。まず第二子の妊娠に驚いたのはもちろん、その一方で、友人の子どもの急逝の知らせに心を落としたり、面会が遮断された老人ホームで暮らす祖母の残された時間を思ったり……。身動きの取れない身体に対し、心は慌ただしい1年だった。
そんな折に出会ったのが本書『BODY JOURNEY』だ。素朴なタッチのドローイングに、体温を感じるような桃色のカバー。帯にある“すこやかに生きるってなんだろう?”というコピーを確認するや、その自分なりの答えを見つけるのにそっと寄り添ってくれる本に違いない、と確信した。
「手には力がある。これからは生きている限り、大切な人に触れることをしていこう」と本書の冒頭にあるように、入院中の父親に向けて施した足のアロママッサージがきっかけとなり、手あての力に気づいたという著者。それは病に苦しむ人の心身はもちろん、見守る人の心さえも、癒し、緩ませるもの。本書では、家族や先輩の死、また自身の不調をきっかけに様々な自然療法とその施術家に出会い救われてきた著者が、それらに共通して軸となる“手あての力”に光を当て、そのはたらきを探っていく。
取り上げられているのは、彼女が信頼をおいている整体、ロミロミ、アロマ、ハーブ、フラワーレメディ、アーユルヴェーダといった数名の施術家たち。ただ、それら手法を事細かに紹介する実用書ではなく、著者自身が施術体験を通して物語を紡いでいく紀行文の形式だ。おそらく丹念な取材を重ねられたのだろう、彼らの施術への思いやバックグラウンドなどが事細かに書かれた文章からは、各々が信じる手あての神秘と可能性がストレートに胸に響く。
一般的に旅というと新しい場所へ出向いて出会いや体験を重ねる“外”向きのものに聞こえるが、対して本書では、自分の身体や意識を観察する“内”向きの矢印が繰り広げられる。本書が押し付けがましくないのはそこだ。個人的には、自然療法や自然治癒力を心強く感じていながらも西洋医療反対というわけではなく、何事もバランスが大切だと思う方。なので、本書が西洋医療を否定しているわけではなく、また特定の自然療法を偏愛しているわけでもない部分で、一気に親しみを覚えた。著者は「自分は医療の専門家ではないから(本書)」と前置きしつつ、自身に起こった心身の変化にじっくり向き合い、丁寧に言語化し、あくまで選択は読者に委ねる姿勢。身構えることなく読み進められるし、なによりストレートに心に響くのはそのためだと思う。著者つるやももこさんのプロフィールを見て納得。彼女は、全日空の機内誌『翼の王国』の編集部員としてスタートし、およそ20年の間「旅とひと」をテーマに編集・執筆を重ねてきた人だったのだ。
「病院の先生以外に、自分のからだのことや心のクセを知っていてくれる「主治医」=「手あての人」を持っていると、ちょっとだけ安心して忙しい毎日を駆け抜けることができるよ、と伝えたい」(本書)
本書を読了した時、著者つるやももこさんが昨年、本書刊行後に急逝されていたのを知った。著者はこの温かいメッセージを、身体を張って世に届けてくれたように思えてならない。今はもう本人に直接伝える術はないけれど、そのことにただただ感謝の気持ちでいっぱいになる。
(書名)
『BODY JOURNEY -手あての人とセルフケア-』
つるやももこ・著
アノニマ・スタジオ
TEXT / 池尾優(編集者)
この記事は、日常・非日常問わず、暮らしが豊かになるようなアイデアを提案するメディア『日非日非日日(にちひにちひにちにち)』からの転載となります。