風が強くてもOK!屋外で絵を描く楽しさ『窓ガラスに大きな絵を描こう』の遠山さんに聞く
キャンプの醍醐味でもある野外遊び。一度フィールドにとび出てしまえば、そこに「子育て」は要らず、子どもは遊びを介して自ら育つもの。そんな「子育ち」をテーマに、毎回さまざまなゲストに登場していただく連載。
今回お話を伺ったのは、味わい深いラフな線が特徴的なイラストレーターの遠山敦さん。日本各地で子ども向け絵画教室や絵を描くワークショップを企画・開催しながら、ポスター、CD ジャケット、装幀などの幅広い分野で活躍中です。オレンジとブルーの丸を描いたフィッシュマンズのベスト盤のアートワークなども、実は遠山さんの作品のひとつ。2020年には、現在の拠点である神戸市垂水区で絵画教室「りんごアートクラブ」をスタート。創作の場で普段から大事にしていることや、野外遊びのアイデアについてお聞きします。
10年以上にわたって、“楽しみながら絵を描ける場”を各地で企画してきた遠山さん。アートセンターの大きな窓ガラスに絵を描く『窓ガラスに大きな絵を描こう』、商店街の道に絵を描く『細ながーーーい道に絵を描こう!!』、裸足に土の絵の具をつけて描く『土と足で遊ぶアート体験』など、その企画はどれもユニーク。
親はベースだけ決めて、あとは自由な発展を楽しむ
――遠山さんは様々な場所で、主に子ども向けに絵の活動をされていますが、普段から大事にされているのはどんなことですか?
子どもには「絵を楽しんでもらいたい」というのが一番ですね。僕自身、イラストレーターをしていながら絵は完全に独学なので、デッサンや画材の種類といった技術的なことは教えられません、と親御さんにあらかじめお伝えしているほどで。とにかく楽しむために来てほしい。そのためには、ルールや完成形を決めすぎないようにしています。ベースだけ決めて、あとはその時々の子どものノリに任せて、自由に発展させていく。その間、僕は「いいねぇ」くらいしか言いません(笑)。もちろんその方が楽しいというのもあるし、そもそも大人が頭の中で考えられることなら、さほど面白くない。それを超えてくるのが面白いところだし、子どもにはそれができると思っています。
――確かに、子どもの表現には驚かされることも多いです。
そうそう。予想外の展開があるんですよね。例えば、思いもよらないところに目がついていたりして、それがカッコよかったりする。自分の作品に取り入れたくなる表現も多いです。それは、大人と違って、子どもの頭には「正解」や「イメージ」がまだできていないからでしょうね。
――遠山さんの絵を描くワークショップは屋外でやることも多いですが、屋外ならではの醍醐味はどんなところにありますか?
野外で絵を描くなら「その環境でできること」でいかに楽しめるか、だと思います。天候に左右されたり、道具が限られていたり、色々なアクシデントがあるので、室内と同じようにはいきません。風の強い日に画用紙やパレットを広げても、思い通りには描けません。であれば逆に、画用紙の上で絵の具が風に流されるのを利用して模様を描いてみるとか、その場に準じて遊ぶことです。
いつでもどこでも手ぶらでも!野外でできる“絵遊び”
――野外では子どもの遊びのネタがいつも同じになりがちなのですが、野外空間でできる“絵遊び”はありますか? 特に荷物も準備も多いキャンプでは、画材や筆記具をあれこれ持って行くのが難しいので、気軽にできるものだと嬉しいのですが……。
僕が過去に企画したなかで人気だったのが「顔探し」です。とにかく顔に見えるものを探す。例えば、建物の外壁やベンチについたネジが顔に見えたり、木の幹が顔に見えたり。キャンプ道具でも細部によっては顔に見える部分があるかもしれませんね。行き帰りの車内から外を見ながらでも楽しめます。最低でも同じような形の点が2つあれば目に見えるので、顔として認識できる。探すと結構あるんですよ。ワークショップでは、探した顔の絵をみんなで描きましたが、いろんな顔をスマホで撮影しておくだけでも立派なコレクションになります。
――道具も要らず、場所も問わずできる遊びですね!特に未就学児の子どもは、なんでも顔に見えるものが好きですよね。
そうですね。ただもしかしたら、ネタがたくさんある街中の方がやりやすいかもしれません。逆に自然のなかであれば、土や砂浜の上に「自然界に存在しない形を作る」のはどうでしょう?枝や石などの自然物は基本的に有機的な形。対して、直線やきれいな円などは自然界に存在しない形です。だから、自然のなかに正三角形や円などの幾何学的な形を作ると違和感が滲み出て面白いんです。枝や石などを幾何学的に並べたり、枝で地面に図形を描いたり。きれいな円を描くには、少し難易度は上がりますが、人間コンパス(2人の人間が紐の両端を持ってそれぞれ軸と鉛筆になる)という手もあります。同じ丸を2つ描いて、片方は丸の内側を掘り、もう片方は山にするなど、図形をベースにいろいろなアレンジもできます。
――なるほど……。石を環状に並べたストーンサークルが思い浮かびましたが、人がそれらに惹かれるのには、そういった違和感があるからなんですね。これも、自然物とスペースががあればどこでも楽しめそうです。
そうなんです。ストーンサークルで思い出しましたが、そういう自然物を使って、地面にものすごく大きい絵や図形を描くのも面白いですよ。10m四方以上のそこそこ大きいものなら、その後にGoogleマップに残る可能性も(笑)。その時たまたまGoogleが空から撮影していればの話ですが……。
――それは夢が広がりますね!確かに可能性はゼロではない。子どもも大人も一緒になって楽しめますし、石を並べるなら、場所によってはしばらくは残りそう。
はい。以前、阪神岩屋駅の駅前広場をキャンバスに見立てて、地面に大きな絵を描くワークショップをしたことがあります。兵庫県立美術館にある緑と黄色のストライプのカエルにちなんで、みんなで大きなストライプの丸をいくつか描きました。しばらく経ってからGoogleマップで検索すると、それが航空写真にもしっかり写っていて。「おお、写ってる!」と、参加したメンバーはみんな大喜びでしたね。