火を体験したことのない子供たちへ、「火育」で得られる自立心
「キャンプから学ぶ」をテーマに、親子がキャンプを通して学べる“新しい視点”を提案する連載。各回その道に精通したゲストを迎え、子どもとキャンプへ行ったときにできる自然の学びをお伝えしていきます。今回のテーマは、「キャンプ×火育」。
■火を知ることはいいこと? いけないこと?
調理をしたり、暖をとったり、照明として辺りを照らしたり。かつて火は、生活に寄り添った道具として生きていくために、なくてはならないツールでした。
しかし、令和の今の時代はどうでしょうか? オール電化の家が増えたことで、火を見たことがない子どもたちが増えているともいいます。それに、自由に焚き火やBBQできる場所も少なくなりましたよね。直火なんてもってのほかで、キャンプ場であっても直火を禁止しているところがほとんどではないでしょうか。
もちろん、その背景には生態系への影響やマナーの問題など様々ありますが、暮らしが豊になるにつれて、子どもたちが“火”を知る機会はどんどん失われつつある、そんなふうに感じています。
もし、有事の際にライフラインが止まってしまったら。夜はまっくらだし、温かいご飯も食べられません。火を知り正しく扱うことは、ときに命を助けてくれるかもしれません。
火を正しく恐れ、正しく扱う。幼い頃から火を知ることは、いいことだと筆者は思っています。
キャンプは、火そのものをリアルに実感できる絶好の機会。そこで、キャンプで実践できる「火育」についてご紹介します。
■ 「キャンプ×火育」を教えてくれる人
野あそび夫婦 アオ&エリー
埼玉県ときがわ町に移住し、2019年から未経験者向けのキャンプ施設『キャンプ民泊NONIWA(ノニワ)』をスタート。手ぶらでキャンプ体験できるほか、必要な知識や道具の使い方まで学べる新しいかたちのキャンプ場を手がける。親子向けに火育イベントを開催。
Website https://noniwa.jp
Instagram https://www.instagram.com/noasobi_fufu
■「火育」ってなに?
こんにちは。野あそび夫婦のアオとエリーです。
そもそも火育とは、火を身近で体験したことのない子どもが、火の扱い方や特徴を実践的に学ぶことです。火そのものを知る方法は様々ですが、私たちの場合は、自然にあるものを使った火のおこし方や、家のキッチンでなくても焚き火で料理ができることを教えています。
■ 火育で大切なのは、小さな成功体験を得ること
自信を得ることで、ほかのことへのチャレンジにつながっていきます。火おこしに成功したら、次は焚き火でお米を炊いてみるのもいいですね。キャンプ中に自分ができることが増えればキャンプはもっと楽しくなるだろうし、役割があることで家族が一つのチームのようになります。今回は親子で楽しむ火育についてお伝えしていきます。
■用意するもの
▶︎最低限必要なもの
・小さな焚き火台(おすすめはSOTOのミニ焚き火台「テトラ」。空き缶で自作することもできますが多少手間がかかるため、テトラは1000円+税とコスパがいいので用意したほうが簡単です)
・トング
・革の手袋
・マッチ
・バケツ(消火用の水を入れる)
・袋(拾った枝を入れる)
フィールドに応じて、
・難燃シート
・レンガなど(地面と焚き火台の距離をとれるもの)
・後処理用の火消しつぼ
・ゴミ袋
も用意しておきましょう。
▶お楽しみアイテム
火をおこすので、+αで食べ物や飲み物を用意して楽しむのも◎。マシュマロ、ソーセージ、ココアなど好きなものを用意してください。
▶服装
長袖・長ズボン(ナイロンなどの溶けやすい素材は避けましょう)
*推奨年齢は5歳から。3、4歳くらいのお子さんは1人では危ないため、もし行う場合は必ず親がサポートしながら行うようにしてください
■野あそび夫婦流「火育」のやりかた
1、まずは基本的なことを教える
どんなものが燃えやすいか、枝をどう組めばよく燃えるのか、マッチの使い方や注意点などを教え、あとはなるべく口出しせず見守ります。自分で考え、悪戦苦闘することも大事だからです。
2、火種になるものを探しに行く
写真左から、焚きつけ(乾燥した杉の葉っぱ)、細い枝、中くらいの枝、太い枝。どれも同じくらいの量を探しましょう。
焚きつけは、場所や季節によってベストなものを使います。基本的には乾燥してやわらかいもの(樹皮、松ぼっくり、落ち葉など)。なければ牛乳パックやポテトチップスなども使うことができます。
なお、キャンプ場によっては場内で枝などを拾ってはいけない決まりがあったり、そもそも落ちていない場合もあったりするので、事前に確認しておきましょう。現地調達できない場合は、近所の公園などで集めておくといいです。そうすれば次のキャンプがより楽しみになるはずです。
また、森でさまざまな枝を探す中で、松ぼっくりやドングリ、乾燥していない葉っぱなど「これは燃えるかな!?」と子どもが発見することがあるので、それらもどんな燃え方をするか試してみるのもいいですよ。
3、まずは1度マッチを着火してみる
用意した枝を焚き火台に組む前に、一度マッチを着火してみましょう。
着火の際は、できればライターよりもマッチを使ってください。マッチのいいところは、火はどの方向に伸びるのか、何があれば火が燃えるのか、火のあたたかさが直感的に分かるところです。
マッチを着火したら、「火はどっちの方向に向かってる?」と子どもに問いかけてみましょう。火は上に向かって燃えていくので、上に燃えるものがないと火は消えてしまいます。そのため、「焚きつけ、細い枝から順に上に積み重ねようね」と説明します。
4、拾ってきたものを組む
焚きつけ、細い枝から順に上に積み重ねていきます。ポイントは、空気が入るように密に組まないこと。
5、途中で火が消えそうになったら……
なるべく下から細く空気を送り込みます。指で小さい三角形を作って口に当て細く息を吹き込む方法や、火ふき棒を使うやり方があります。炎が復活したら、空気の送り込みがうまくいったサインです。
6、焚き火終了のサインは、灰がぜんぶ真っ白になったら
焚き火終了のサインは、すべてが真っ白な灰になること。炭化した黒い炭は自然に帰らないので、絶対に放置してはいけません。これは意外と親御さんたちも知らないことが多いので、ご留意を。
残った灰は、キャンプ場の場合は炭捨て場に、ない場合は火消しつぼに入れて持ち帰るか、完全に冷めるまで待ってビニール袋やアルミホイルに入れて持ち帰り、自治体ごとのゴミの日に捨てましょう。
■火育で育まれる、子どもの自立心
火育で得られることは、子ども目線の場合、自分の手で火をおこし、その火を使ってお湯を沸かしたりマシュマロを焼いて食べたりした経験が自信に繋がり、自立心が育まれることです。
そしてこういった自然体験は子どもの地頭を鍛え、早期教育にも効果的だと言われています。煙の匂い、焚き火の音、炎のゆらめき、手から感じる熱さ、焼いたマシュマロの味……たしかに、焚き火は五感を刺激してくれる要素がすべて揃っていますよね。
また親目線で考えると、小さな焚き火で火の特徴や危険性を子どもに理解させておくことで、大きな事故に繋がるリスクを避けることができます。
■注意したいこと
私たち野あそび夫婦が火育イベントでいつも教えている注意事項が3つあります。
1.焚き火をする時は必ず大人も一緒に。勝手に一人で焚き火をしない
2.近くに水の入ったバケツを用意しておくこと
3.焚き火中はその場を離れない
です。
マッチを扱う際には、燃えやすい軍手ではなく革手袋か素手で扱いましょう。
■イベントに参加する手も
自分ではうまく教えられそうにないという方は、火育イベントに参加して親子で学ぶ方法もあります。
今回教えてくれた野あそび夫婦が主宰する『キャンプ民泊NONIWA』では定期的に火育イベントを開催しているので、気になった方はウェブサイトのカレンダーで開催日を確認してみてくださいね。
Website https://noniwa.jp
Instagram https://www.instagram.com/noasobi_fufu
取材/山畑理絵
写真/野あそび夫婦